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駆除が困難とされていた『園芸スイレン』の駆除に成功!

 福島大学・昭和村は福島県自然環境保全地域で昭和村天然記念物に指定されている矢ノ原湿原に繁茂していた侵略的外来種の園芸スイレンの駆除に成功しました。園芸スイレンは各地の自然公園等で植栽され,生態系や景観に大きな影響をおよぼしています。各地で駆除の試みがなされていますが,浮葉を刈り取っても再生力が強く,駆除が困難なことが知られていました。矢ノ原湿原では,5年間徹底的に根茎から掘り取り続けることで園芸スイレンの駆除に成功しました。自然公園等での大規模な集団で駆除が成功したのは,おそらく始めてと思われます。今回の駆除の成功のノウハウが,県内外の園芸スイレン駆除にも活用されることが期待されます。

 

 福島大学・昭和村は福島県自然環境保全地域で昭和村天然記念物に指定されている矢ノ原湿原に繁茂していた侵略的外来種の園芸スイレンの駆除に成功しました。

 園芸スイレンは花が美しいことから園芸用の水生植物として親しまれ,庭や公園の池などで栽培されてきました。一方,各地の自然公園等の湖沼でも愛好家により植えられることがありました。矢ノ原湿原でも,1970年代半ば以降に持ち込まれたものが増殖し,かつては湿原に映える美しい花として訪れる写真家等に親しまれていました。

 しかし,園芸スイレンは繁殖力が旺盛で,海外で侵略的な外来種とされています。日本でもしばしば旺盛に繁殖して水面を覆い,絶滅危惧種を含む水生生物へ大きな影響を及ぼすことから,環境省と農林水産省は平成27(2015)年3月に侵略的外来種をまとめた「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)」で,重点対策外来種に指定しました。矢ノ原湿原でも急速に面積を広げ,平成22(2010)年には121.9平方メートル,平成30(2018)年には341.4平方メートルと毎年1.14倍に増殖し,一部の水面を覆い尽くすようになり,景観への悪影響が目立ってきました。園芸スイレンが生育している場所では,園芸スイレンの被度が70〜100%に達し,園芸スイレンと競合する在来のヒツジグサや準絶滅危惧種のイヌタヌキモなど,他の植物がほとんど生育できない状況でした。そこで,昭和村教育委員会と福島大学は平成30年度より令和3年度までの4年間受託研究「矢ノ原湿原に関する研究」の契約を結び,矢ノ原湿原の植物多様性とその保全の研究を進める中で,園芸スイレンの駆除の研究と実施を進めました。福島大学では共生システム理工学類黒沢高秀教授(植物分類学,生態学)が,福島県植物研究会会員などの協力も得ながら事業に携わりました。

 園芸スイレンについては,妙高高原のいもり池(新潟県妙高市)など各地で駆除の試みがなされています。園芸スイレンの駆除は浮葉の刈り取り,遮光シート,根茎からの掘り取り,などの方法で行われています。浮葉を刈り取りは多くの場所で行われていますが,刈り取っても再生力が強く,駆除の効果が少ないとされています。遮光シートは大がかりな装置と設置の労力がかかる上に,景観や他の水生植物への影響が大きいため,矢ノ原湿原で行うのは避けた方が良いと思われました。根茎からの掘り取りは,労力がかかることが指摘されていました。矢ノ原湿原では,5年間徹底的に根茎から掘り取り続けることで園芸スイレンの駆除に成功しました。園芸スイレンは湖沼の底の泥の浅いところに太い根茎を横走させ,白く太い不定根を多数泥中に張って容易には掘ることができません。掘り取りは,主に,手で葉や花茎の束をつかんで引きながら,胴長のつま先で根茎の下を蹴って,根を切りながら根茎ごと引き抜く方法で行いました。胴長ではアクセスできないような水深が深い場所では,ボートから棒の先に鎌を付けた自作の道具により根茎や根を切り取り,浮いてきた植物体を回収することによって駆除を行いました。駆除には福島大の教員・学生を中心に,福島県植物研究会会員や村民のべ約120名が参加し,およそ355人×時間をかけて駆除を行い,令和3(2021)年10月22日に,その時点で確認できた園芸スイレンは全て駆除されました。令和4年度に取り残しの根茎の駆除を終了しました。ただし,埋土種子からの発芽が続くことが予想されることから,矢ノ原湿原では次年度以降もモニタリングや,駆除の継続が必要と思われます。国内の自然公園等での一定規模の集団で駆除が成功したのは,おそらく始めてと思われます。今回の駆除の成功のノウハウが,県内外の園芸スイレン駆除にも活用されることが期待されます。  昆明・モントリオール生物多様性枠組が採択され,優先度の高い侵略的外来種の導入及び定着の防止,他の既知または潜在的な侵略的外来種の導入及び定着率の2030年までの少なくとも 50%削減(ターゲット6)が各国に求められることになりました。南湖公園でも園芸スイレンが繁茂して景観に影響が出ていることから,白河市により今年度から駆除試験が開始されています。裏磐梯の一部湖沼など,この他の県内各地の自然湖沼や景勝地などにも園芸スイレンが繁茂していることから,導入の防止と駆除の取り組みが求められています。また,安易に自然湖沼や景勝地などに園芸スイレンを植える取り組みが県内でこれ以上広がることのないよう,やっかいな侵略的外来種としての知識の普及が望まれます。

図1.矢ノ原湿原で繁茂する園芸スイレン(令和元(2019)年6月14日撮影,3小葉は湿原植物ミツガシワ)
図1.矢ノ原湿原で繁茂する園芸スイレン(令和元(2019)年6月14日撮影,3小葉は湿原植物ミツガシワ)
図2.園芸スイレン駆除の様子(令和3(2021)年9月23日撮影)。
図2.園芸スイレン駆除の様子(令和3(2021)年9月23日撮影)。
図3.矢ノ原湿原での園芸スイレンの面積の増加。
図3.矢ノ原湿原での園芸スイレンの面積の増加。

左:駆除前(令和2(2020)年7月3日)
右:駆除後(令和3(2021)年10月22日)

図4.駆除前後の矢ノ原湿原の園芸スイレン。左:駆除前(令和2(2020)年7月3日)。右:駆除後(令和3(2021)年10月22日)

図5.掘り取った園芸スイレン。
図5.掘り取った園芸スイレン。

 

(お問い合わせ先)
 <福島大学>
 共生システム理工学類教授 黒沢高秀(くろさわたかひで)
  電 話:024-548-8201
  メール:kurosawa@sss.fukushima-u.ac.jp
 
 <昭和村>
 昭和村 教育委員会
 電 話:0241-57-2114  FAX:0241-58-1010
 メール:kyouikuiinkai@vill.showa.fukushima.jp

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