昭和村大芦地区に住む戸頃さんは、茨城県からの移住者。茨城で旅行会社を経営しながら昭和村の古民家に住んで酒米を作るという、ハイブリッドな生活を送っています。縁もゆかりもなかった昭和村に、どうして移住してきたのでしょうか?どうして米作りをしているのでしょうか?自慢の日本酒を飲みながら、ちょっとほろ酔い状態の戸頃さんにお話を聞いてみました。

グローバル志向な酔いどれ 戸頃康弘さん
1965年生まれ。茨城県筑西市出身。つくば市で旅行会社を経営。昭和村大芦地区の古民家を購入し2020年に移住。旅行会社と並行して酒米作りを行う。戸頃さんの酒米を原料にした日本酒は国内外で販売されている。

インターネットでいい古民家を発見!通過するだけだった昭和村が移住先に

――茨城県つくば市で会社を経営されているそうですが、昭和村からだと遠くて大変じゃないですか?どうして移住したんですか?

戸頃さん
会社まで車で片道3時間くらいかかりますね。今は6:4くらいで昭和村にいる時間の方が長いかな。

もともと南会津付近で古民家を探していたんですよ。そしたらたまたまローカルな不動産屋さんのサイトでこの家を見つけて。昭和村は車で通過したことはあって、いい所だなとは感じていましたが、住みたいとまでは思っていなかったんです。

でも来てみると土地柄はいいし、古民家にしては家の状態も良好。それですぐ購入して、2020年に移住しました。
昭和村にある戸頃さんのご自宅
昭和村大芦地区にある戸頃さんが購入した古民家と裏庭

――それは運命的な出会いですね!ちなみに家はおいくら万円で……?

戸頃さん
60坪ほどの土地に、家は築160年くらいで150万円です。でも「すぐ買ってくれるなら100万円でいいよ」と値引きしてくれたんですよ(笑)。昭和村の初代村長の家だったそうで、家の中に肖像画が飾ってあります。

――え!そんなにあっさり50万円引きですか!?150万円でも安いのに。でも、そもそもどうして南会津で家を探していたんですか?

戸頃さん
会社を立ち上げてから30年以上、自然観察系の発地型ツアーを開催していますが、お客さんはほとんど茨城県内の方で、既存のビジネスモデルに限界を感じていました。

それで新たな拠点を探していたんです。会津地方は歴史も自然もあって、食べ物もおいしい。ここならその土地ならではの楽しみ方を企画するような、着地型のツアーができると思ったんです。

――なるほど。でも茨城とは全然環境が違いますよね?雪もめっちゃ降りますし。

戸頃さん
雪は大好きなんです。でも今年はさすがに降りすぎなので、少し嫌いになりました(笑)。スキーをするのを楽しみにしていたんですが、毎日雪かきでそれどころじゃなくて(苦笑)。

――今年は特に降りましたからね。都会と比べて、生活で不便な点ははありませんか?

戸頃さん
特にないですね。インターネットはつながるし、米も水もおいしい。それに今住んでいる大芦地区って、山と山の間が広いので、よく日が入って明るいんです。高台から見ると「箱庭」みたいで本当に美しい。

それに土地に湿っぽさがないからか、村民もみんな心が豊かで明るいんです。カフェもあってド田舎という感じではないので飽きずに住めています。
福島県昭和村の大芦地区
ドローンで撮影した昭和村大芦地区の風景

昭和村には欧米人が好む景色がある。村へのインバウンド取り込みを計画!

――会津でツアーを始めたいというお話でしたが、具体的にはどんな内容を考えているんですか?

戸頃さん
昭和村にツアーセンターを作って、山遊びやサイクリングといった体験型のツアーを始めたいと思っています。教育旅行や企業研修、外国人観光客の取り込みを狙っています。
スノーモービルを楽しんでいる戸頃さん
昭和村に訪れた知人家族と、スノーモービルを楽しんでいる戸頃さん。雪深い季節でも、いろいろな遊びが満喫できる

――あれ?昭和村に拠点を作るんですか?南会津で、という話だったような気が……。

戸頃さん
だって昭和村が素晴らしいから(笑)。若いとき、オートバイで1年半くらいかけて世界中を旅したんですよ。帰国後は旅行会社に入り、そこでも海外に行きました。いろんな有名観光地に行きましたが、昭和村の大芦地区はそれらに引けを取りません!

――世界一周した人が言うと、すごい説得力です。でも失礼ながら普通の田舎のような気が……?

戸頃さん
インドネシアのバリ島にあるウブドってご存じですか?棚田が広がる観光地です。大芦はそこと似てるんですよ。棚田はありませんが、至る所に水路が走っていて美しい。欧米人が好む景色なんです。きっとインバウンド客に長期滞在してもらえます。

――昭和村が日本のウブド!その発想はありませんでした。ただ海外ではほぼ無名の土地ですよね。

戸頃さん
実は今、私が育てた酒米で日本酒を造り、イギリスに輸出しているんです。そこでできたパイプを生かして、イギリスから観光客を呼び込みたいと思っています。

イギリスって武士道に興味がある人が多いんですよ。会津は明治維新の舞台の一つだし、隣の南会津町伊南地区は剣道の里としても有名です。

コロナ禍になる前は、田舎にも外国人観光客が来るようになっていたので、昭和村に滞在してもらいながら会津にも足を伸ばしてもらうツアーは、きっとウケるはず!

初めての酒米づくりに挑戦!有名酒造と組んで造った日本酒はイギリスにも輸出

――酒米をご自分で作っているんですね! もともと農業はされていたんですか?

戸頃さん
いえ、まったく(笑)。でも自分で食べる用の米を作りたいと思っていました。

たまたま村を散歩していたら、あるおじいちゃんに「うちでお茶飲んでいきな〜」って声をかけられて。お茶を飲みつつ、米作りをしたいと話をしたら「うちの田んぼ使っていいよ」と。機械も貸してくれて、米作りの方法も教えてくれました。

――なんじゃそら。おじいちゃん、いい人過ぎます(笑)。

戸頃さん
ほんとそうですよね(笑)。それで米作りを始めたんです。そうしたら、たまたま友人が食品などの輸出をサポートしている会社の社長を連れて、遊びにきたんです。

その社長が大芦をえらく気に入って「南会津町の『花泉酒造』と組んで、新しい日本酒を作ろう!」と提案してくれたんです。花泉酒造さんもその話にのってくれました。
花泉酒造で醸造された日本酒『ロ万 50 EDITION OASHI』
戸頃さんが大芦地区で作った酒米を使用し、花泉酒造で醸造された日本酒『ロ万 50 EDITION OASHI』

――就農したばかりで酒米を作ったこともない人と組むって、結構な賭けですよね。

戸頃さん
社長は「今の時代、いくら美味しいお酒を造っても、そこにストーリーがなければ売れない」と言っていて。

その点では「移住者が新規就農して酒米をつくり、それを使ってお酒を造り、海外へ輸出。生まれた海外とのつながりを生かして、観光客も呼び込む」というのはなかなか魅力的なストーリーですよね。実際、福島県の地元紙が取り上げてくれました。

――おぉ〜。読みが当たったんですね。どんなお酒ができたのか気になります。

戸頃さん
『ロ万 50 EDITION OASHI』という名前の純米大吟醸酒です。辛みの中に甘さがあってフルーティーなので、飲んだ方はワインみたいだとおっしゃいますね。今年は3,000本製造し、うち1,000本をイギリスに輸出します。

――着々と計画が進んでる感じがします。日本酒を足がかりに海外から昭和村に観光客が来るようになれば、村の活性化にもつながりそうです。

戸頃さん
昭和村のためになんて、そんなたいそうなことは考えていないんですよ。私は楽しくやりたいだけですから(笑)。でもそれで結果的に村が盛り上がるのであれば、うれしいですね。

戸頃さんのオススメ昭和村スポット

「会津銀山街道の美女峠」

美女峠
「会津銀山街道」は会津若松市大町札から南会津郡只見町小林まで続く、約72kmの街道
戸頃さん
ハイキングにおすすめです。特に昭和村エリアにある「美女峠」は、紅葉の季節は絶景!あちこちで湧き水がでているので、湧き水巡りも楽しいですよ。

この記事は、令和3年度 福島県地域創生総合支援(サポート)事業を活用しています。

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