移住前は、海外ツアー会社で企画や添乗員をしていた菅家麻弓さん。知人の移住先だった昭和村に遊びに来るようになって、「まずは一年」と移住を決意。その後、思わぬ展開で、学生時代からの夢だったゲストハウスを、築180年の古民家で2011年から始めることに。

実は、筆者も「とある宿」で、「からむしの糸作り体験」をしたことがきっかけで昭和村に移住。空き家探しでは麻弓さんにお世話になりました。宿のあるじ歴も十年を越えた麻弓さんに、村での暮らしや子育て、ゲストハウスを営むことになった経緯などをお聞きしました。

「とある宿」のあるじ 菅家麻弓さん
千葉県出身。2010年に東京から昭和村に移住。2011年9月に、福島県の支援事業の一つとして、築180年の古民家ゲストハウス「とある宿」を開業。村の男性と結婚し、現在、一児の母として子育て中。

海外から国内に目が向いたその時に、経験したことのない感覚の田舎が!

――麻弓さんは、昭和村に来る前はどんなことをしていたんですか?

麻弓さん
学生時代、旅行が好きで海外に行くことが多くて、まずは海外の魅力を伝えたいなと思って、海外ツアー専門の旅行会社で企画とか営業の仕事をしていました。

――仕事でも海外のいろいろな所に行っていたんでしたよね。

麻弓さん

添乗員の仕事もしていて、中近東とかイスラム圏を中心に、リビアとかアルジェリアなど北アフリカのツアーもやってましたね。エチオピアの裸族を訪ねるツアーとかも。

その会社にしばらく勤めた後、日本も見てみたいなぁと思って旅をしていた時に、国内の文化を外国の人に伝える仕事もいいなと思って、国内旅行の会社に入りました。外国の人向けのツアーとか作れたらいいなと思っていたんですけど、その会社ではツアー企画ができなくて。

――それから昭和村へ?

麻弓さん

国内旅行の会社に一年ちょっと勤めたときに、昭和村に移住していた知り合いに声をかけてもらって、そのご家族に会いに昭和村を訪れました。そうしたら、ちょっとすごい!経験したことのない感覚の田舎だったので、素敵な所だなぁと思って。それからちょくちょく遊びに来るようになりました。

「からむし」っていうものがあって、「織姫制度(からむし織体験生事業)が長く続いてるんだよ」って聞いて、若い移住者が結構いるから住みやすそうだなと思って。田舎に魅かれていたので、「いつかは移住したい」と思っているだけでいつまでもしない、というのも嫌だったので、「とりあえず一年住んでみよう」と、その次の年(2010年)に移住しました。

菅家麻弓さんが最初に住んだ福島県昭和村大芦地区
麻弓さんが最初に住んだ昭和村大芦地区(写真:須田雅子)

――住み始めてどうでしたか?

麻弓さん

昭和村に引っ越してきてすぐ、「ここにずっと住みたい!」とは思っていたんですよね。ちょこちょこ来ただけではわからない村の魅力があって。住んだ瞬間になんか、えーっ!こんなに自然が近くって、もうなんか虫とか鳥とかいろいろ飛んでて(笑)、いろんな自然の音が聞こえてきて。そういうのが生活の中にあることの心地良さ!また昭和村ってすごいじゃないですか。雲…じゃない、霧!朝、目覚めた時の、霧がわーっと覆ってる風景とか、本当にすごい所だなあって。玄関開けると、毎朝、違う絵を見てる感じ!

福島県昭和村の大芦地区の朝の風景
大芦地区の朝霧(写真:須田雅子)

――村の人たちもいいですよねえ。

麻弓さん

野菜をいただいたりとか、風邪をひいてる時に寿司くれたおじいちゃんとかもいて(笑)。1人で風邪ひいてて大変だから、「何かいいもの食え」っていうその気持ちが!隣りに住む大家さん(農家民宿「やすらぎの宿とまり木」のキヌイさん)も、あったかいうどんを窓から差し入れしてくださったり。「みんな、なんて優しいんだ!」と思いました。

夢が叶ってゲストハウスを昭和村で開業

――どういう経緯でゲストハウス「とある宿」をやることになったんですか?

麻弓さん

最初は、「NPO法人 苧麻倶楽部」(※1)の手伝いをしつつ、単発のバイトをしながら、時々、添乗員のバイトのために東京に出ていました。その頃、「空き家を使ってゲストハウスをやりたい」って話をしてたんです。

昭和村に住み始めて半年ぐらい経った2010年10月頃、苧麻倶楽部が県の支援事業(※2)に企画書を出してくれて。そうしたら、3.11が起きてしまって。

※1 ちょまくらぶ。地域課題解決を目的としたNPO法人(2007年設立)。住民サービス、都市農村交流事業(大学ゼミや企業ボランティアの誘致)、生活支援コーディネート等を行っている。
※2  2011年度 福島県緊急雇用創出基金事業『若者による複合型ビジネス創発支援事業』

――東日本大震災ですね。

麻弓さん

県の支援が正式に決定したのは4月中旬だったんですけど、その間、3.11で大変な震災が起きたのに、「大丈夫かな」、「どうしよう」みたいなのが一瞬よぎりました。でも、会津は特に大きな影響はなかったので、「このタイミングで昭和村にいるっていうのも何か特別な意味があるのかもしれない」と思って。まさかこんな予期しない所で、「ゲストハウスをやりたい!」っていう学生の頃からの夢が叶うなんて思ってなかったんで。

――やっぱり夢が叶っちゃうんだなぁ、ここは(笑)。

麻弓さん

あっはっは(笑)。そうですね。福島県の支援事業の一つとして、最初の二年間はサポートを得ることができました。本当にありがたかったです。

インタビューに笑顔で答える菅家麻弓さん

――家は最初から候補としてあったんですか?

麻弓さん

いいえ。村に来たばかりの時に、仕事で福島県庁に行く機会があって、県庁で昭和村出身の方が顔を出してくださったんです。

その後、2011年のゴールデンウィークに、昭和村で古民家カフェのイベントをやったときに、その方に再会したんですよ。そしたら、「うちのおふくろの実家、空いてるからどうかな?」って。それがこの家で。

菅家麻弓さんがオーナーの「とある宿」全景
ゲストハウス「とある宿」。この家を麻弓さんに提案した本名仁さんは、福島県庁で麻弓さんに初めて会ったときに、麻弓さんの目の輝きに印象を受けていたので、「この人なら」と思ったという。(写真提供:とある宿)

――ここは場所もいいし、家も立派で、しかも気多(けた)神社の神様に見守られて!

麻弓さん

気多神社の宮司を代々やっていたおうちなんです。水道の蛇口から湧き水も出るし。「矢の原清水」と水源が一緒なんですよ。お風呂も改修した後で、すぐ住める状態でした。

――すばらしい!今「とある宿」は通常営業?

麻弓さん

今は基本的に週末営業です。朝夕みんなでご飯作って片付けもして、相部屋で一人一泊5,700円(2022年9月現在)。

客層は30代~50代ぐらいが中心かな。単身者とファミリーとか。昭和村のからむしやゲストハウスに興味がある人が多いです。リピーターも6割とか7割ぐらい。

蒸かまどで炊くご飯がおいしい!
菅家麻弓さんがオーナーの「とある宿」の夕食風景
お客さんも一緒に料理、片付けをする「とある宿」の食事風景。(写真提供:とある宿)

――私も昭和村で初めて泊まったのが「とある宿」で、一泊二日で「からむしの糸作り体験」をしました。今もやってますか?

麻弓さん

明日も糸作り体験の予約入ってますよ!糸作り体験は、「とある宿」に泊まらなくても1日でできるようにしたんです。

あとは、こっちが日にちを指定してっていうイベントもいろいろやっています。打ちたての蕎麦を食べるとか、窯焼きピザを食べるとか。秋は芋煮会。コブタの丸焼きとか餅つきとかも。

菅家麻弓さんがオーナーの「とある宿」で行っている「からむしの糸作り体験」
「からむしの糸作り体験」は、からむし(苧麻)の繊維を裂き、績み、糸車でよりかけをするまでの約5時間コース。(写真提供:とある宿)
(左)窯焼きピザ(右)餅つき (写真提供:とある宿)

企画を立ち上げるのが好き。子供向けの企画もやりたい。

――お子さんが生まれて、村での子育てはどうですか? 

麻弓さん

子供が小さい時は、家の中で2人きりで過ごすことが多くて、でも散歩していたらご近所さんが声かけてくれたりアドバイスくれたりして、色んな年代の方と関わりを持たせてもらえるのは、私にとっても子供にとってもありがたかったです。

近所のおばあちゃんちに行って、子どもをちょっと寝かせてる間、一緒に韓ドラ(韓国ドラマ)見たりとか(笑)。そういうのでリフレッシュできて、すごい助けられて。

あとは自然と触れ合えるというのがいいですね。たぶんまだ本人は気づかないですけど、湧き水ガンガン飲んだりっていう、そのことの良さとか。夕陽がきれいだったり…、きれいなものが身近にある環境で育てられて本当によかったなって思うんですよね。

菅家麻弓さんとご家族が一緒に映った写真
(写真提供:とある宿)

――逆に子育てで困っていて、「こんなだったらいいな」とか思うことはありますか?

麻弓さん

遊具がたくさんあるような、親子が自然に集まる場所がもっとあるといいですね。雪の時期は子どもが遊べる場所に行くために、1、2時間、車を走らせないといけなかったり…。幼少期のからだづくりのためにも、天候を気にせずに子どもたちが遊べる場所があったら、とっても理想。子どもは未来の昭和村を支える「宝」なので。

喰丸小学校に設置したエア遊具
昨年の冬は、過去に企画した子ども向けイベントで余ったお金に、麻弓さんが自費をプラスして購入したエア遊具を「喰丸小」に設置。お母さんたちが集い、子どもたちが遊べるようにした。(写真提供:とある宿)

――お子さんができる前は、地域交流型イベント団体「イットコ」で、村の若い人たちと自転車イベントを企画したり、ピザやアジアン・メニューのお弁当やさん「osaji」を開業したりと(※3)、麻弓さん、いろいろやっていましたが、今後はどんなことを考えていますか?
※3 osajiは現在、閉業中。

麻弓さん

たぶん企画はしたくなると思うんですよね(笑)。昭和村の面白いのって、いろんな人が特技を持っていて、みんなが専門店みたいな感じ。組み合わさったら新しいものができる!みたいな。子ども向けの何か、小さくできたらと思うんですけど、今はまだ思いついてないです(笑)。

麻弓さんのオススメ昭和村スポット

「藤八(とうばち)の滝」

福島県昭和村の「藤八の滝」
写真出典:令和の時代に「福島県大沼郡昭和村」へ〜昭和レトロを探しに〜 | 株式会社LIG

「藤八の滝」は、昭和村の大芦地区から南会津町の南郷地区に抜ける国道401号「新鳥居峠」(冬期は通行止め)の途中にある。

麻弓さん

水と森に囲まれた感じしますよね。水の音と緑とで、すがすがしい気持ちになります。ちょっと足で入れる浅い所があるのがいいです。

菅家麻弓さんがオーナーの「とある宿」の建物

ゲストハウス「とある宿」
住所 : 〒968-0104 福島県大沼郡昭和村小中津川宮原1044
ホームページ : http://www.toaruyado.com/

【聞き手】須田雅子(昭和村宣伝部員)
 直感に導かれ、2015年秋に東京から昭和村に移住。村の暮らしを日々満喫している。

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