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「村想いとお酒の強さは父譲り」
酒の神に愛される羽染加奈子さん
昭和村には、「昭和温泉しらかば荘」という温泉宿泊施設があります(日帰り温泉もあり)。私が「しらかば荘」のアルバイトで初出勤したときに、仕事を教えてくれたのが羽染加奈子さんでした。手際のよいテキパキとした仕事ぶりや、お客様を明るくもてなす楽しげな接客に、「プロだなあ」と感心したことを覚えています。そして驚いたのが加奈子さんのお酒の強さ!聞けば幼い頃からの父の影響があるそう。加奈子さんのUターンや今後の夢、いや、その前にお酒のことについても聞いてみました。
- 「昭和温泉しらかば荘」
スタッフ 羽染加奈子さん - 1977年生まれ。昭和村出身。高校から会津若松へ。会津若松、郡山で20数年暮らしていたが、ひとり暮らしの父が気になり始め、2019年にUターン。「昭和温泉しらかば荘」で仕事をしながら、夢の実現を心に描いている。
父から学んだお酒の飲み方
――先日、会津若松で一緒に飲んだ時に、加奈子さんのお酒の強さに驚かされました。しかもすごく楽しそうに飲んでいて、「この人は酒の神に愛されているなあ」って思いました。まずは、お酒のこと聞いてもいいですか?
- 加奈子さん
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いいですよ。私のお酒への愛を世の中に広めたい(笑)。どんどんPRしてください。
――たしか、お父さんからお酒についての教育を受けたって話をしてくれましたね。
- 加奈子さん
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そうですね。昭和村役場の職員だった父は、家に帰って夕飯のあとにも仕事をしていて、お酒がまわってくると嬉しそうに仕事の話をするんです。「父ちゃんは今こういう仕事をしていて、こんなふうになったらいいなあと思ってるんだ」とか「昭和村はこんなに素敵な所で、いろんな人に知ってもらいたいんだ」とか。それで、もうちょっとお酒がまわってくると、「加奈子ぉ、お酒は飲めるようになっとけよー」って(笑)。お酒を飲んで人とコミュニケーションをとると、「仕事中に話せないことも話せるし、人を呼ぶよ。変に酔ったり、お酒に溺れたりしなければいい」って話してくれました。
- 加奈子さん
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家にはお客さんもよく来ていて、お客さんも父ちゃんと話していると楽しそうなんですよね。だから、「いい雰囲気の飲み」っていうのをちっちゃいときから見て、「ああ、お酒って楽しいものなんだなあ」って。笑いに包まれているっていうか、お酒を飲むと、みんな楽しくなるでしょう。夜9時ぐらいに2階に上がって寝るときにも、下から楽しそうな声が聞こえてくるのが、すごい安心感があって、昔から好きでした。
――お酒を楽しく飲むというお手本を、お父さんが見せてくれていたんですね。
- 加奈子さん
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そうなんです。なので、私も若い頃からよく年下の子とかにお酒の飲み方を教えていました。「そうなったらもう飲まない方がいいよ」とか、「喧嘩ダメ」、「難しい話しない」とか言って指導していました(笑)。お酒は楽しく飲むものだし、飲みすぎたらダメって。
居酒屋でつかんだ仕事の手応え
――高校進学で村を出たんでしたね?
- 加奈子さん
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これも父ちゃんの影響というか、父ちゃんはお酒を飲み始めるとよく、「将来、ここで旅館やるから」って楽しそうに話していたんですよ。加奈子が女将になって、3人の兄が料理と接客と社長を分担してって。それで、「私はいつか旅館の女将になるんだ」って思うようになっていて。だから商業高校に行って、最初の就職先は東山温泉(会津若松市)の旅館でした。お客様へのおもてなしやお辞儀の仕方、敬語の使い方とか、マニュアルがしっかりしていてすごく厳しかったけど、本当に勉強になりました。今思うとあれが基礎だったかなあ。
――そのあと郡山へ?
- 加奈子さん
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2年くらいその旅館で働いてから、バイトしたりしているうちに、居酒屋の仕事で声がかかって。居酒屋は合ってたなあ。
14、5年働いたうち、7、8年は店長を任されていました。私、結構、売上に貢献できていたんじゃないかなあって思います。新しい店舗ができたときに、起ち上げに行ってくれって頼まれたりしていましたから。その頃から仕事の手応えを感じるようになりました。
――「しらかば荘」で私が見たプロの仕事ぶりは、そうやって培われていったんですね。
- 加奈子さん
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父ちゃんが仕事好きだったように、私、本当に仕事が大好きなんですよ。仕事しているときが、一番自分らしくいられる気がするし、なんていうのかなあ、素直でいられるような気がします。
――昭和村へ帰ろうと思ったきっかけは?
- 加奈子さん
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母親が亡くなって、父ちゃん、ひとり暮らしが長かったんです。父ちゃんって昔から私たちに心配させないように、あまり弱音をはかない人だった。こっちが電話すると、「大丈夫だ。心配すんなあ」って。それが、70半ばくらいになった頃から、ちょっとずつ変わっていったんです。父ちゃんの方から電話が来て、「昨日、病院へ行ったら、ああだった、こうだった」って。それで、「ん?」となって。父ちゃん、だんだん気持ちが弱くなってきてるなあって。きょうだいで話し合ったりしたけど、私、郡山での生活がすごく楽しかったし、昭和村に帰っても田んぼとか畑とかできないし、雪も嫌だったから、すぐには帰らなかったんですよ。でも父ちゃんが帯状疱疹になったときに、「ああ、帰んなきゃ」って思いました。
――「しらかば荘」で仕事が見つかったのはよかったですね。
- 加奈子さん
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当時、近所に「しらかば荘」のマネージャーをしている人がいて、スタッフを探していると聞いていたこともあって面接を受けました。旅館や飲食業での私の経験とモチベーションと体力を求めている所がないかなぁと思っていたので、「しらかば荘」にぴったりハマったというか。「しらかば荘」なら、直接、村のためになるし、村を盛り上げることができると思いました。
――村を考えて行動するところが、やっぱりお父さん譲りですね。
- 加奈子さん
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昔から父ちゃんが言ってたんですよ。「昭和村はすごく良い所で、他所の人に知ってもらわないといけない。これからは昭和村が輝く時代だ」って。父ちゃんの娘である以上は、父ちゃんが作り上げてきたことを崩しちゃいけないなって気持ちがあって。私にできることで、つなげていかないといけないと思っています。
――昭和村にUターンして良かったことは?
- 加奈子さん
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「原点に戻れた」ってことですかね。郡山は何でもあるし、楽だし、ある程度、人のことなんてどうでもいいので、ごまかせるじゃないですか。落ち込んだ時に一週間、家に引きこもっても放っておいてもらえる。でも、昭和村にいるとそれができない。朝からマックナゲットとか買ってきて、一日中、お酒飲んでグダグダしていたい時もあるんですけど。
――昭和村はマックないし(笑)。
- 加奈子さん
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郡山ではそういうことやりながらストレス溜めないように生きてきたので、それがあまりできなくなったんですよね。だから、今でも休みの日になると若松や郡山に遊びに出かけちゃうんですけど。でも、なんていうか、郡山にずっといたら、周りの人に歩み寄ることなく、逃げてばかりで一生終わっていたんじゃないかと思います。
――昭和村だと周りの人たちはみんな、加奈子さんのこと小さいときから知っているんですもんね。放っておけないし、心配もしますよね。
- 加奈子さん
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この間、両原の「早乙女踊り」を伝承館(両原郷土芸能伝承館)でやったときに、「太って加奈子だかわかんなかった」って、村の人たちにめちゃくちゃ言われたんですよ。近所の同級生としばらくしゃべっていて、「早乙女踊り、そろそろ始まっぞー」っていうときに、一人のおばちゃんが、くるっと振り向いて、「おんめ、だんじゃ(お前、誰だ)?」って言ったんですよ。その人は、たぶん、勇気を振りしぼって聞いてくれたんだと思います。それで、「ん!?加奈子か?」って言うから、「そうです!加奈子です」って言ったら、みんなが、くるっ、くるっ、くるって後ろ向いて、「なんだ加奈子か!」「加奈子か!」って(笑)。「なんで、そんなにわかんないの!?」って思ったけど、「ああ、太ったから、みんな気がつかなかったんだあ」って。それでちょっと痩せなきゃって思ったし(笑)。そういうことも必要なのかな(笑)。
飲食業は天職。私にしかできないことを始めたい!
――この先、やりたいことはありますか?
- 加奈子さん
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漠然と考えているだけなんですけど、やっぱり居酒屋がやりたいですね。村の人にも喜んでもらえて、よそから泊まりに来た人の遊び場所にもなるような。みんなが元気になれるような居酒屋を作りたいです。
――加奈子さんは、お酒がある場所では本当に生き生きとしていますもんね!
- 加奈子さん
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お酒は外せないですね(笑)。私は、「お酒が飲める」っていう、お酒の存在だけでも生きていけます。気乗りしない仕事をやらないといけないときに、自分の気持ちをどうにか奮い立たせるために、「帰ったら、何と一緒に何を飲もうかな♪」って思うんですよ。そうすると、気持ちがふわって軽くなって、「そうだ!帰ったら、こうして飲もう!」って。そうするともう一気に仕事が加速します(笑)。お酒は私のモチベーションっていうか、支えですね!
加奈子さんのオススメ昭和村スポット
代官清水
矢ノ原湿原のそばにある湧水。昔、江戸幕府の巡検使が、湧水のおいしさに感激し、「この清水を保護し、長く領民の憩いの水とするように」と代官に話したことから、この名で呼ばれるようになった。県内外から多くの人が水を汲みにやってくる人気スポット。
- 加奈子さん
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私は、飲み水はいつも代官清水を汲んできているんです。冬の間は通行止めだから、舟鼻峠の途中の白森清水に行くんですけど。代官清水を飲むようになったら、いくらお酒を飲んでも二日酔いしなくなったんですよ。ほんと不思議!
(↑ あくまでも個人的感想です。)
加奈子さんが勤める「昭和温泉 しらかば荘」
【聞き手】須田雅子(昭和村宣伝部員) 直感に導かれ、2015年秋に東京から昭和村に移住。村の暮らしを日々満喫している。 著書に『奥会津昭和村 百年の昔語り 青木梅之助さんの聞き書きより』(歴史春秋社 2021)。 |